8:00 起きて、着替えなどをまとめる。
10:00 着替えを置きがてら誰もいないうちにオープン準備をするつもりで店に行ったら、マスターも奥さんもいらしていてやることもなく、店を出る。そりゃあ喪服で働かれてもな。
10:30 元町駅前のサンマルクでコーヒーを飲みながらちあきちゃんを待つ。
ここもよく待ち合わせをした場所だ。来ても本から目を上げずに遅いとか何とか言って。店も通りも何もかも隣にいたのだった。
11:10 ちあきちゃんから「吐き気が」というメール。店を出てコンビニで水とタオルを買う。
11:20 けろりと顔色の悪いちゃきちゃん登場。上島でコーヒー。イケアの話とかどうでもいい話を頑張ってする。電車の中でもずっとカレーとか中国のこととかユニセフがどうとか。
12:55 式場に着く。さっちゃんが隣に座る。ちゃきちゃんが写真を持っていた。我慢できない。
13:00 告別式が始まる。私はあの坊主が嫌いだ。お父様が「何でも器用にできる子だって思っていたけど、そうでなかったのかもしれない」と。そんなの知ってる。私は知ってる。知ってるって思い上がっていた。
お経とかお供え物とかをネタに不謹慎な冗談を言い合うのが約束だったろう。言っちゃいけないような冗談で爆笑するんだろう。こっちが言ったくだらない話を白い目で冷笑するんだろう。
さっちゃんの震える手を見る。私はいちども手を握り返していない。体温のない指で触れられても握り返すことなく、差し出すだけで。必要とされているとあぐらをかいていた。
13:50 棺に花を入れる。一緒に何かを入れている子もいる。何も燃やしたくない。燃やさないで欲しい。手を握らせて欲しい。私は手を握り返さなかった。髪や顔に触れている人がいる。触らないで欲しい。私は手を握っていない。鼻水まみれの花を棺に入れる。汚くてごめん。蓋を閉めないで。持って行かないで。お願いだから燃やさないで。もう見限られていたのかもしれないけれど手を握れたら。
14:00 出棺。連れて行かないで。ちあきちゃんは斎場に同行。バイト先の夫妻が「いい子だった」と言っている。全然いい子じゃない。いい子じゃないって知っているからって、私は知っているって、それが何だ。だから何なんだ。何も知らなかった。知らせようとしていたのに知ろうとしなかった。話を聞いてなかった。手と足に力が入らない。冷たい指を思い出す。罰が当たったんだって思う。
14:30 式場をあとに、さっちゃんたちと駅へ向かう。電車の中で無駄話をしてくれる相手がいてよかった。
15:30 駅前でみんなと別れて店へ。途中のスタバでコーヒーとサンドイッチを買う。
15:40 案の定、人手がないときは忙しかったらしく、片付けが終わりきっていない状況に戻る。コーヒーとサンドイッチを流し込みながらマスターの見ているバラエティ番組の録画をBGMに片付けと夜のオープン準備。
20:15 予約の常連さん来店。客前は大丈夫。
21:45 客足も途切れたので閉店。黙ると駄目だ。
マスターが笛を吹いている。はじめたばかりのときに聞かせて、うまくなってから聞かせることができなかった、って昨日言っていたっけ。何のつもりだって苦笑しながら片づけを続けようとしていたけど、一瞬うずくまって動けなくなる。他の人には言えない傷をもっと見せるつもりだった。ボディタッチが苦手な理由もちゃんと伝えるつもりだった。うまく説明できるようになったら聞いてもらおうって思ってた。いつかって思ってた。いつでもいつかでいいって。だから同じように私に判らない痛みも聞きたかった。いつか聞けると思ってた。
23:15 店を出る。コンビニでジュースを買う。ちあきちゃんに電話する。ちゃきちゃんの声を聞きながら帰途。「伴侶を失ったようだ。」私もそうだ。いなくなった明日が考えられない、来週、来月、来年、その先、何も想像できない。私もそうだ。
24:00 買ってきたジュースを飲む。少々怪しいのでアレルギーの薬を飲む。