とつとつ

漫画を読んだり、文庫本で小説を読んだりする。平積みの本の帯に、「ノルシュテイン氏絶賛」やら「小津安ニ郎の映画のよう」とか書いてある。その固有名詞の意味を考える。いくら苛立ち屋の私でもそこまでいちいち文句をつけるつもりはない。「カバーはどうされますか?」「あ、お願いします。」
引用をするべき言葉がたくさんあるような気がする。撮った写真の向こう側へ行けそうな気がすることがある。撮った写真の向こう側に引用じゃない言葉があればいいんだけど、例えばぐぐって検索結果が0件だったとしても、この道に靴底が触れていない場所はない、そんなものはない。それならそれで、いつかのどこかの知らない誰かと、ユニゾってる想像をするのも悪くない。
この街の並木には大きな楠が多い。今が落葉のとき。風が吹けば豪雨のような音をたてて葉の嵐が道を走る。枝先には金色の新しい子らがわらわらとひかる。これから当分の間、楠のそばはこの新芽とそれから花とでいい匂いがずっとしている、そんな季節になる。